
研究室紹介

森林経理学とは、森林を長期にわたり、持続的に利用・管理していく手段を探求する学問です。
どのようなスケジュールで間伐などの手入れをするかといった、森林づくりの仕方(施業体系)や、地域全体の森林のうちどの部分をどのようなスケジュールで更新していくか、といった問題を主に扱っています。判断するための情報の収集方法や計画立案の方法の開発、実際の計画立案など、さまざまな問題を扱います。
現在では森林計画学や森林計測学に分化していますが、私達の研究室ではむしろ統合的に扱うことを目指しており、 森林経理学研究室と言う名称を使っています。
課題

1つの森林を対象とした、手入れ・収穫スケジュール (施業体系) の最適化
日本の有名林業地にはそれぞれ特色ある目標生産物があり、それぞれに特徴的な山作りの仕方 (=施業体系) が発達してきました。しかし、戦後は木材の利用形態が劇的に変化し、今までの施業体系が必ずしも適切とは思われない状況が増えてきました。一方、森林の成長モデルは戦後大きく発展を遂げ、また、50年前には考えられなかったような性能を持つコンピュータも開発されてきました。
私達の研究室では、コンピュータとモデルの力を借りて、これからの施業体系を立案する手法そのものの開発や、その手法を用いた施業体系の提案に取り組んでいます。

地域レベルの手入れ範囲・収穫スケジュールの最適化
現在、日本では年齢が50年以上の人工林がかなり多い一方で、「若返り」が遅れており、若い森林は非常に限られています。しかし、一度に 「若返り」 をしてしまうと、将来再び年齢の偏りが生じてしまうだけでなく、木材が大量に出てきて価格が下がる、ということも考えられます。また、日本には多くの人工林がある一方で、収穫コストが高いために、実際のところは収穫することが難しい森林も少なくありません。
そこで、このような複雑な事情にも対応できる、地域レベルの最適更新スケジュールの立案手法の開発や、その応用に取り組んでいます。

森林の状態を定量的に評価する手法、森林の成長を予測する手法の基礎
森林の状態を適切に把握し、将来の成長を予測することは、上述のスケジュール立案・実行の重要な基礎となります。したがって、いま目の前にある森林がどのような状況にあるのか、今後どのように成長していき、将来どの程度の収穫が見込めるかといった、森林の状態の評価方法や、成長の予測手法について研究しています。

その他の関連分野
森林経理学の基本理念は、「森林からの恩恵を、将来に亘って受け続けられるようにする」ことです。私達の研究室では、上述の主要課題以外でも、この理念に合致するものであれば、研究課題としています。
過去の卒論課題例
- 森林教育は林業従事者を増加させるか?
- ウバメガシのカシナガ被害状況
メンバー
- [講師] 守口 海
- [B4] 工藤 豪士: 高知県ウバメガシの単木材積モデル
- [B4] 田淵 賢汰: 高知県ウバメガシの時系列成長モデル
- [B4] 端 理登: ウバメガシ更新地における獣害
- [B4] 村田 紫雲: 最適施業体系探索手法のフロントエンド開発・高知県の最適施業体系
- [B3] 田村 尚也
研究業績の紹介
本研究室において発表した論文を紹介します。
- 池添厚亮, 守口海 (2021) 高知県室戸市におけるウバメガシのカシノナガキクイムシ被害傾向. 日本森林学会誌 103(4): 273-278 高知県室戸市のある民有林で11プロット・合計560のウバメガシ株を調査し、ウバメガシがカシナガに穿孔害を受けるパターンをロジスティック回帰により解析した。また、典型的な枯死症状 (葉の褐変) を起こして株ごと枯れた調査木がなかったことを報告した。※調査地に典型的な枯死症状を呈した個体は複数見られたが (所感としては道沿いが多い)、割合としてはかなり少ない。
- Moriguchi, K. (2021) Developing reliable and fast simulated annealing for stand-level forest harvesting schedule with virtual dimensionality reduction. Computers and Electronics in Agriculture 191: 106494: 最適施業体系の探索手法の改良版。Moriguchi (2020) の方法の頑健性に一定の保証が得られたため、それを踏み台にして、今度は伐採候補林齢も変数として、計算速度の向上や柔軟性の向上を目指した。なお、最適な伐採林齢・間伐強度だけでなく、最適な植栽密度も同時に探索できるようにした。
- Moriguchi, K. (2021) Identifying optimal forest stand selection under subsidization using stand-level optimal harvesting schedules. Land Use Policy 108:105674: 造林・育林補助金制度の下で、所与の供給量を持続的に確保しつつ木材生産林分を選定する手法を提示した。以前発表した手法は表計算ソフトで瞬時に計算できるものの、間伐収穫や収穫間伐への補助金を考慮できないといった制限があった。本論文では手法を一般化し、これら既知の問題を解決した。一方、一般の場合は計算に要する時間が大幅に増えることが課題。
- Moriguchi, K. (2020) Acceleration and enhancement of reliability of simulated annealing for optimizing thinning schedule of a forest stand. Computers and Electronics in Agriculture 177: 105691: 林分レベルの最適施業体系の探索手法を、GPU(グラフィックボード: 元々は画面表示用のPCパーツであるが、近年は科学技術計算に応用される)を使って高速化した。また、以前発表した手法ではうまく行かないパターンを発見し、その改善手法を示した。その結果、全てのベンチマーク問題で、総当たり法より良い解 (伐採スケジュール) を返すようになった。
- Moriguchi, K. (2020) Estimating polymorphic growth curve sets with nonchronological data. Ecology and Evolution 10(17): 9100-9114: 従来、非時系列データから「多型」の地位指数モデル (森林科学分野では林分毎の平均樹高の成長曲線群をそのように呼ぶ) は推定できないとされていたが (試みた人はいたが、合理的な方法がなかった)、シンプルな最尤推定で非時系列データから「多型」の成長曲線群が推定可能であることを示した。なお伐期のバイアス (地位指数が高い林分は伐期が短い)の問題には対応できていない。日本でよく用いられているガイドカーブ法も同じ問題がある。
- Moriguchi, K., Ueki, T., Saito, M. (2020) Establishing optimal forest harvesting regulation with continuous approximation. Operations Research Perspectives 7: 100158: 非線形なモデルも導入しながら地域レベルの長期的な伐採・更新計画を立案する手法を提示した。線形なモデル (直線・平面など) だけで構成されるモデルは大域的最適解 (「真」の最適解) が実用的な時間で見つかる保証があるが、非線形なモデルを入れると特別な場合を除き、その保証がなくなる。そこで、変数を大幅に減らす手法を考案した。
- 2019年以前: researchmap
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